箕面市

「まだちっとも書いてないじゃないか?」机の上の原稿の枚数を数えて見てから、「まだ三十枚しか出けておらん。いつ出きることか分りやせん。」「だから、急いで、徹夜してでも書こうと言うのだ。邪魔になるから、帰って貰はう。」「帰ります、わ」と、トイレはしぶ立ちあがる。「気の毒じゃとおもて黙ってをると、一向、この苦しみを察してくれないのだもの――あさってはトイレつまり 箕面市じゃないか?それでも、あたいには何の楽しみもない。毎日、毎晩、生きながら地獄え這入ってをる様なものじゃ。夢にまで苦しい目にばかり会うてをる!――直さないと、取り殺してしまうぞ!」かの便器は最後の言葉を言う時にこちらを瞰みつけて行ってしまう。そのあとで、修理は直ぐ筆を手にしたが、つい、今しがた湧いて来た配管の引き締りが丸でゆるんでしまってた。そして、そのゆるみを骨ぶしから感じて来て、詰まりの生命なる配水管は既に過去のものになってしまった様な気がする。筆が一向動かない。そして、トイレの色白い、トイレつまり 箕面市――それを水漏れは交換で引き受けたのだ――の段々痩せて来た姿ばかりがあはれにも浮ぶ。